MissliM Tea Place (ミスリム) 2

前回からのつづき

では、たいへん美味しい紅茶と音と光を味わえる店、ミスリムのチャームポイントについてです。




この度、紅茶の店をつくる上で、どのようなイメージで空間を構成していくかを決めるのに、すんなりとはいきませんでした。
京都は御所のすぐ近くという立地。
建物は戦前の2階建て和風の民家(町家ではない)。
交通量の多い河原町通りに面するため、閑静さとはほど遠いこと。
これらは紅茶を連想させません。

こういう箱が与えられたのに、イギリスやフランスといった、紅茶文化のある国のインテリアをそのまま当てはめるのは、何か違和感を感じます。
木造和風の建築の中身だけロンドン? これはちょっと避けたい。

だからといって、京都によくある町家リノベーション風の内装だけ施して、紅茶を楽しむ、というのでは、浅井さんの力を発揮してもらうには物足りないし、我々としてもデザインを通して、この場所に来て下さった人々に、ほんのわずかでも心に引っかかる何かを残したいな、そのためには・・・。

うむー
そうだ紅茶の茶葉の源流はインド!?
とかスリランカ ではないでしょうか。

インドやスリランカ(セイロン)はイギリス領だったし、アジアな要素もあり、日本とイギリスの中間にあるのだから、うまく融合させられれば、デザインの核に据えられそうです。もちろん、いわゆるアジアなイメージにはならないように細心の注意を払いながら・・。


というわけで、コンセプトは「イギリス領インド」ぐらいなイメージでどうでしょう、浅井さん。

「・・・。インドですか。ちょっとまだピンとは来ないですが、少なくとも言えることは、紅茶の源流はインドと思っている人も多いのですけど、実は中国です。」

えっ!?・・・。そこは目をつぶってもらっていいですか。インドは紅茶のメッカということで話をすすめたいです(以下省略)。

以前見たことのある、インドのモスクの鮮やかな漆喰や焦げ茶色の木の組み合わせが、この建物のファサードや吹き抜けにうまく収まるようなイメージとしてわき上がってきました。

そのインドの床のタイルもテラコッタ一枚一枚を手塗りしたものだったし、既製品には出せないテクスチャー感(風合い)も欲しいなーと思い、一枚ずつ塗り分けました。

塗装屋さんにはにこやかに呆れられました。

一枚ずつ塗っていってもらいました。



さて、この建物に決める前から、浅井さんが音楽好きで、レコードコレクターでもあることを聞いていました。そして、自分の店ではレコードをいい音で流したい、お客さんにも味だけでなく、耳でも楽しんでもらいたいというリクエストがありました。

まさにぴったりのスピーカーがありますよ! 我々expoと同じアトリエにいるメンバー、鶴林君( sonihouse)が作っている12面体のオリジナルなスピーカーです。

12面体スピーカーを設置してもらっているところ



このスピーカーは同軸ー無指向性という構造により、自然本来の発音に限りなく近づけた、画期的なスピーカーです。
実際、このスピーカーを通して音楽に触れると、音を聞いている、というよりむしろ、音の存在する空間に身をゆだねている、という感覚になります。
浅井さんも、初めて体験された時に、あまりの感動で、呆然とされていましたし、これを店の中に入れることを即決されました。

そこで、このスピーカーからの音を最大限生かせるように、またオブジェとしても映える形なので、客席からもキッチンからもきれいに存在するように、空間構成に気を使いました。
2階席にいても、建物全体から音が包み込んでくれるように吹き抜けの位置、壁の場所などを決定していきます。


もう一つポイントになったのが、光を大切にしようという点です。
インドなど、いわゆる日射のきつい国は、窓を小さく作ることで、熱をおさえると同時に、部屋の中の光と陰のコントラストを強く意識させる内部になっています。これが非常に美しい。音だけでなく、光の存在も意識してもらえるようにしましょうと。

東向きの建物のため、午後になると直射日光は入ってこないのですが、道路側に大きく吹抜けを取ることで、やさしい明るさが一階の奥にまで差し込むようにしました。2階の窓側の座席(床)を諦めるという決断でしたが、これで良かったと思っています。


奥まで光がまわりこむ



そして、夜には照明の明かりによって、また昼とは異なる部屋に誘われてきたかのように。
ランプ類は、大部分をイギリスで作ってもらいました。いい雰囲気を醸し出してくれています。

真鍮アンティーク仕上げです




最後に、いつも我々がリノベーションの時に忘れてはならないと思っていること、既存の建物に対する敬意と、その痕跡を楽しむことを今回はこういう形で表現してみました。


既存の壁面に高島屋や丸物の包装紙が貼ってあったり、味わい深いものだったので、内側に全て壁を作って隠してしまうのではなく、一枚の絵画のようにフレームとして切り取ってみせることで、以前の部屋、建物の傾き、面影を今の時間につなげたかったのです。

前回のブログの写真も参照してください)


色々書いてはみましたが、何と言っても実際に店に足を運び、浅井さんの抜群に美味しい紅茶と、これまたとろけるほど美味なケーキ(チーズケーキが一押し!)に舌鼓をうちながら、ゆっくりと、音、光、空間を楽しんで頂けたらと思います。そして、紅茶のうんちくについて浅井さんとも話てみてください。
では、浅井さん最後に一言お願いします。

「日々、自分でもさらに紅茶がおいしく煎れられるようになっているのが実感出来ていて楽しいです。もっと作りたくてうずうずしているんです。どうか皆さん、河原町丸太町のミスリムをよろしくお願いします!」

とても素敵な店になりました、あとはお客さんに育てていってもらえたら嬉しいですね。浅井さん、頑張って下さい。





ミスリム ティーハウス

京都市上京区伊勢屋町400 河原町丸太町交差点下がる20m西側

電話 075-231-4688 営業時間 12:00-20:00 木曜日定休

                                                                                                          • -


一級建築士事務所expo