京都工芸繊維大学での授業

新年になりましたが、昨年のトピックの一つとして、我々expoが京都工芸繊維大学の短期授業を受け持つ機会がありました。




工芸繊維大学の大学院生を対象とした、「再生建築実習」と題した授業で、
建築系の中川研究室の学生と、日向研究室の学生を対象に、町家リノベーションの実務に我々と共に関わってもらうという演習授業です。

西陣にある古い町家を購入された我々のクライアントの野口さんに、この一連のプロジェクトを学生と共に進めて良いかとお尋ねしたところ、快諾して頂きましたので、古民家をクライアントの希望にあわせて住み良くリノベーションする、という京都において非常に汎用性の高い仕事そのものに両研究室諸君に参加してもらって、現場採寸、条件聞き取り、プランの作成、提出、見積りに至るまでを監修させてもらうという流れでした。


外観 


物件は、非常に典型的な路地奥の町家です。家の奥に織物をするための作業場が残っており、職住一棟型の織屋建という造りです。
織機を支える為の鉄骨の構造物がそのまま残っていました。


ごちゃっと構造物が残っている室内。使い勝手が悪そうです。


普通に考えると、このような鉄骨は生活するには邪魔なだけなので撤去するところですが、我々は折角なので、この構造物をプランに活かすかたちで、そして、町家であることの良さ、例えば奥の庭まで風や視線が抜けることなどを意識しながら、野口さんの希望をカタチにしていくにはどうすれば良いかを考えていくことにしましょう、と学生達に提案しました。

学生と共に、野口さんの希望条件などをお聞きして、現場採寸し、その日は解散。
その後、設計案のチェックなどを経た後(省略します)、今度は大学の構内に野口さんに来てもらって改装案のプレゼンテーションを行いました。


学生達による、クライアントへのプレゼンテーション風景


模型を使っての説明。


彼らにとって、実際に、そのあと住まわれる方を前にプレゼンするのは初めてのことだったでしょう。
頑張って考えたことなどを説明してくれますが、出会って間もない施主さん相手にうまく考えていることを伝えるのはやはり難しいものです。

建築の難しい言葉を使ってしまったり、逆に抽象的なイメージを沢山語ったとしても、聞く人によっては、具体的な想像がつかなかったり、はたまたその案が自分にとって良いのか悪いのか選択しづらい、情報の多さゆえにわからなくなっていく、といった歯痒い状況が生じます。

また、経験が浅い故、自信を持って自分の意見をプッシュする根拠が乏しいということもありますし、実際に現場でどう造られていくかが分かっていないとそもそもデザインの細かい部分を決めるのが難しいことも多々あります。

野口さんは学生の案を大いに楽しんで聞いて下さっていましたが、帰り際にぽそっと「自分が何をしたいのかよくわからなくなってきました」とつぶやかれました。

むむむ、お客さんにこういう思いを持たせるのは芳しくないことだな、と思いました。
我々の監督不足もありますが、クライアントとの意思疎通の熟達というのは何よりも考えていかなければなりませんね。


それでも彼らは、我々が学生の時より随分しっかりしているのは間違いありません。

学生達のプレゼンテーションの様子を横からみて、色々と考えさせられるところもあり、大変興味深い時間でした。




その後、実際に工事が行われ、無事に快適に住まわれるようになりました。
満足しておられるとのことで、良かったです。


工事中 お施主さん自ら作業に加わっておられます



鉄骨の遺構を使った中二階のリビングスペース



皆様お疲れさまでした。野口さんも、長い時間つき合っていただき本当にありがとうございました。


ではまた今年もよろしく御願いいたします。



一級建築士事務所エキスポ